海外ロケ・撮影の背景
計らずも2022年、ウクライナはロシアとの軍事衝突により最も取材が必要とされる地域となりました。ニッポン・プロダクションは、ウクライナにおける撮影・報道関係者との広いネットワークを持っていることから、ドキュメンタリーやニュースを通してこの戦争を取り上げる数々の日本のテレビ局のトータルコーディネーションを担当させていただきました。今回は、NHKで放映されたドキュメンタリー番組の制作に協力した事例をご紹介します。本件でエンドクライアントから依頼されたのはリヴィウからの生中継で、ドキュメンタリー映像を繋げる集成として位置付けられたものでした。安全上の理由から、エンドクライアントの打ち合わせは撮影の1ヶ月以上前から始められました。しかし、日本側のアナウンサーとディレクターがテレビ局からウクライナ入国の最終合意を得られた時点で生中継まで1週間を切っていたため、その間にポーランドとウクライナの両方で撮影ロケーションとスタッフ(カメラマン)を手配する必要がありました。柔軟な対応とチームワークが鍵となり、無事にエンドクライアントから与えられた依頼をこなすことができました。
行ったこと
戦争の開始から一貫して社会問題に取り組んでおり、リアルタイムで最新の現地情報を届けることができる現地コーディネーターを7名集め、ポーランドとウクライナでチームを設立。ポーランド国境とリヴィウの両方に配置しました。
- 両国のおける撮影許可や取材許可の取得のための働きかけ
- ウクライナの専門家を通じ安全に関する助言を提供
- 現地のカメラマンと機材一式の手配
- 滞在先(シェルター付きホテル)の手配
- ポーランドとウクライナの両方で、現地コーディネーター、交通手段、宿泊施設を提供
場所
当初はポーランドとウクライナの国境付近で撮影を行う予定でしたが、最終的に「ウクライナで撮影する方が視聴者により大きいインパクトを与えられる」という決断となりました。これによりロケ企画の後半ではキエフやリヴィウも有力な選択肢として考えるようになりました。しかし、当時はまだ紛争の真っ只中であったことを鑑みてキエフでの撮影は断念し、リヴィウで最適なロケ地を探すことに集中しました。中心部の主要な地下鉄の駅で撮影許可が得られることを検討しましたが、法律とセキュリティの専門家に助言を仰いだ結果、ロシア軍の軍事目標とみなされる可能性のある混雑した駅や地下鉄の駅を狙うことは勧められないとの判断に至りました。そこで代替案として、リヴィウ市内の繁華街と、この戦争の犠牲者を追悼し一般市民がキャンドルの点灯や献花を行えるフラワーウォールを提案しました。
実現方法
戦争の中ポーランドとウクライナで仕事をこなさなければならないことを考慮し、フリーランスのジャーナリスト、プロのフィクサー、技術スタッフ、日本語の翻訳者、弁護士、セキュリティアドバイザーからなる幅広い職業ネットワークの構築に取り組みました。戦争の開始以来両国で継続的に仕事をしてきた私たちだからこそ、両国2つのプロフェッショナルチームを使い、最後まで柔軟かつ熟達した対応で日本の撮影クルーをサポートすることができたと考えています。またウクライナではセキュリティの関係で、エンドクライアント側の主要スタッフのみしか国境を越えることができなかったため、テレビ撮影に慣れたカメラマンも用意する必要がありました。コミットした現地チームを持っていることも、間違いなく弊社の強みのひとつです。
紛争地域における撮影を行う際の留意点
紛争地域で撮影する場合、現地のメディア関係者だけでなく、セキュリティ専門家に助言を仰ぐことも非常に重要です。専門家に相談することで、現地のジャーナリストとは異なる視点からアプローチを得られる可能性があります。ニッポン・プロダクションでは、安全性を第一に考えています。場合によってはエンドクライアントの希望に添えないこともありますが、現地の法律や安全な撮影地とそうでない撮影地を慎重に確認・判断します。また、一人のコーディネーターにロケを任せるのではなく、幅広いネットワークとブレインストーミングを駆使することでウクライナでの撮影や取材を希望するエンドクライアントに最適なソリューションを提供したいと考えています。